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「全国暴力追放運動推進センター」

2006年5月
より効果を上げる「暴力団離脱指導」のために
~施設内指導と施設外支援の有機的融合~

全国暴力追放運動推進センター
中林 喜代司

 


1 はじめに

 
  本稿では、筆者の警察(暴力団捜査・対策)及び全(*)国暴力追放運動推進センター(以下、都(*)道府県暴力追放運動推進センターを含め、暴追センターという。)における実務経験から、暴力団員の離脱・就労等の指導・支援に関して最も必要性を感じている、「矯正施設における指導と関係機関が行う支援の有機的融合」について、暴追センター等における活動を中心に私見を述べることとする。
 * 民間における暴力団追放の推進母体として寄与する事業を目的に設立された公益法人。暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律により、国家公安委員会から指定された全国暴追センターと各都道府県の公安委員会から指定された都道府県に所在する暴追センターがある。暴力団に関する相談活動、講習・広報・啓発活動、暴力団からの離脱希望者に対する援助活動、被害者への見舞金の支給、民事訴訟の支援などを行っている。
 
(1) 暴対法効果
  暴力団対策の最終目標は、暴力団組織の根絶と組員の更生である。平成4年3月、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(以下、暴対法という。)が施行され、暴力団を法律上「反社会的集団」と位置づけたことで、暴力団を社会から排除する意識が国民に浸透するとともに、暴力団から離脱を希望する者(以下、離脱希望者という。)が急増した。警察は,都道府県にある暴追センターの行う暴力団からの離脱の意思を有する者を助けるための活動(以下、離脱支援活動という。)を核に、関係機関、受け入れ企業などと連携して暴力団の社会復帰対策を進めた。
 
(2) 離脱希望者に対する援護等の措置
 暴力団員の組織離脱を促進し、離脱者を社会の一員として定着させるため、平成5年5月、暴対法が改正され、公安委員会(警察)の責務として、暴力団との離脱交渉の仲介、矯正・保護機関との連携等を規定、社(*)会復帰アドバイザーの制度を設けるなど援護の措置が確実に行われることを担保した。以来、警察、暴追センター、刑務所等矯正機関、ハローワーク等行政機関及び受入協賛企業等が連携するなど離脱・就労等の支援活動が推進されている。
 

 * 離脱希望者が円滑に就労を果たすサポート役として、その知識・経験を有する警察職員であった者を社会復帰アドバイザーとして都道府県警察が採用、警察や暴追センター、矯正施設、受入れ事業所等と連携するなど、離脱希望者に対する指導・助言等に当たる制度。


2 暴力団の本質と離脱更生を阻害する要因等

 
(1) 暴力団の本質
  暴力団は、「組」を名乗り看板を掲げ市民の生活と接し存在してきた中で、その組織の威力をバックに暴力の危険性を社会に見せつけ、組員に対しては「組」を維持するための掟に反する制裁としてのリンチ、指詰め等の残虐な暴力性を見せつけてきた。
 その暴力団の本質は、暴力とカネによる支配、恐怖と打算による服従である。暴力装置をもって市民や企業を対象に不当要求を行い、縄張り争いで抗争事件を起こす。親分・子分等の犠牲血縁や暴力により組を形成して統制を図り、依然として社会に存在している暴力団は8万6,300人(平成17年末時点の暴力団構成員と準構成員。18年2月警察庁発表)を数えている。
 
(2) 組織離脱の阻害要因
  組員の暴力団組織からの離脱と更生を阻害している要因は、まさに暴力団の本質に係る暴力・カネ・恐怖・打算と一致する。つまり、暴力団の看板でカネになる魅力に取り付かれ打算的に組に居つづけること、また、離脱の志をもっても暴力制裁の恐怖からあきらめてしまうことなど、暴力団の暴力性の影響が主要因となって離脱・更生が阻害されている。
 もっとも、暴力団員の大半は犯罪前歴者であり、真面目に継続して働く意欲に乏しい者であることや、一方で受刑そのものが出所後の組内における地位を高める場合等、個々人の事情による阻害要因も多種介在する。


3 暴追センターを中心とした離脱・就労支援活動

 
  暴対法は、離脱希望者とその関係者を対象として、就業の円滑化や脱退を妨害する行為の予防等について警察と暴追センターの役割等を定めている。
 
(1) ボウツイセンターって?
  「暴追センター」について、過去実施した離脱に成功した元暴力団員に対する面接アンケートを確認すると、
 離脱を支援してくれること等を含め暴追センターをよく知っていた者は15,4%、
 名前を知る程度48,7%、
 知らなかった35,9%との結果がある。
 と答えた人の「暴追センターの援助等の取組みを知っていればよかった。」との声を重く受け止め、暴追センターの認知度アップに努めているところである。
 
(2) 暴追センター間のネットワーク
  各都道府県にある暴追センターは、暴力団に関する相談を受ける駆け込み寺として、専門的知識経験を有する相談委員により様々な相談に応じている。離脱のための交渉援助、脱退妨害の排除、離脱の意志を固めた者に対する採用面接等への同道等の支援をはじめ、転居費の貸付や、当面の食費、交通費など緊急の援助を必要とする場合には援助金を支給している。
 また、離脱者が手指の再生手術や刺青を消す手術等を受けるための指導も行っている。
 離脱者は、組の関係者のいない安全な地域への就労、居住を望むことから、各都道府県に所在する暴追センター間の連携により、住居地、就職先を選定するなどの支援活動を展開し効果を挙げている。
 身辺の保護については、警察との連携を強化し家族等からの相談にも対応、緊急通報発信機器等の貸出しも行っている。
 
(3) 各暴追センター連携による最近の離脱・就労成功事例
  九州A県に本拠を置くB会系暴力団C組員(21歳)は、離脱を決意(少年院退院後1年2月)し、同県G市から婚約者とともに逃避、東北D県E市内に就労先と住居先を探す段階で同県暴追センターに相談した。C組員は、就労契約の前提条件となる住民登録で所在をつきとめられる身辺の危険を極度に恐れた。
 同センターでは、就業先を選定する一方、「住民基本台帳の閲覧等の制限」について検討を重ね、配偶者防止法、ストーカー行為等の規制に関する法律と同様に閲覧等の制限ができるものと判断、D県担当課及びE市役所に対し同趣旨による協力を要請した。
 その結果、C組員の前住所のA県G市役所の了承とD県警察の意見書を取り付ければ実施できる旨の回答を得た。D県暴追センターは、A県暴追センターと連携してG市役所にその旨要請、同市役所の了承を得てD県警察作成の意見書をE市役所へ提出、住民基本台帳の閲覧等の制限措置が決定した。その後、C組員は就職を果し、同登録場所に定住し平穏に暮らしている。
 
(4) 関係機関連携による総合的離脱就労対策
  都道府県単位に、暴追センターが中心(事務局)となって、警察、刑務所、保護観察所、弁護士会、自治体職業安定所管部、公共職業安定所、保護司会、雇用能力開発機構、協賛企業等で構成されている「暴力団離脱者社会復帰支援協議会」が設立され、離脱・就労に関する情報交換、調査・対策等を協議、受け入れ企業を確保するなどネットワークによる離脱から社会復帰に至るまでの支援の推進を図っている。
 警察庁のまとめによると、暴力団から離脱することができた暴力団員は、平成17年中は約580人であり、暴対法施行後の合計は同年末で、約8,390人に上っている。


4 施設内指導と施設外支援の有機的融合のために

 
 本項では、今までに全国暴追センター等が暴力団の離脱・就労・更生に関して行ったアンケート及び筆者の刑務所における暴力団離脱支援体験により得られた、「離脱者・受け入れ事業者・矯正施設のニーズ」について確認し、次に、府中刑務所において取組まれている暴追センター等との連携による暴力団離脱指導について紹介する。
 
(1) 離脱者が求めるもの(不安・心配)
 離脱就労に伴い一番欲しいのは、
    心のうちを話せる精神的な支えになってくれる人
  不安・心配な点は、

    1. 職場での人間関係    
    2. 社会人としての常識・心得    
    3. 組織からの身内への侵害行為    
    4. 仕事がみつかるのか    
    5. 仕事が長続きするか    
    6. 収入が安すぎないか    
    7. 出所後の誘惑を乗り切れるか

 
(2) 受け入れ事業主が求めるもの
 離脱者受け入れに伴い保証して欲しい点は、

    1. 暴力団と完全に縁を切っていること
    2. 継続して就労できること
    3. できれば、指詰めや刺青が人目につかないこと
    4. 必要な資格免許があること
    5. 誠意があること

 
(3) 矯正施設が求めるもの
 離脱指導を確かなものにするためには、

  1. 施設内における心情面のサポートを徹底した離脱意志の強化に加え    
  2. 専門機関による出所後の本人および家族等への各種支援による不安の払拭が必要


 2.については、全国暴追センター、都道府県暴追センター及び警察等からの派遣講師による離脱支援の現状についての具体的な講義が必要。
 
(4) 施設内離脱指導と暴追センター・警察の連携事例
 筆者は、府中刑務所からの前記(3) を理由とする講師派遣要請により、全国暴追センターの立場から離脱支援の現状について講義をする機会をいただいた。以下は、その概要と感想である。
 
【具体的なカリキュラム】

  • 期間  :3ヶ月(1期~4期)
  • 対象者 :各期、離脱意思の堅い者を選抜
  • 指導内容:
      1. 離脱の動機と決意
      2. 全国暴追センターにおける具体的な支援の現状
      3. 暴力団の反社会性と家族への影響
      4. 警察による具体的支援の現状
      5. 都道府県暴追センターにおける具体的な支援の現状
      6. 離脱への手続きと釈放後の生活設計

 
【受講対象者に周知すべきこと】
 今まで2度の講義体験を通じて、離脱意思を強固なものとし出所後の就労への過程を確実なものにさせるため、特に、次の点について伝え、周知する必要があると感じている。

  • 暴追センターを中心に多くの機関、熱心な関係者が関与し支援しているネットワークを具体的に教示(社会復帰アドバイザーの手記を配布等)する。
  • 全国暴追センターの調整で広域的に居所・就労先が選定できる事例の紹介。
  • 支援を受けることは決して恥ではないこと。
  • 暴追センターは単に相談を聞くだけでなく、侵害行為を防ぐため警察と連携しての身辺保護等に至るまで具体的に手を差し伸べる支援を行っていること。

 
【離脱指導支援講義を担当した実感】
 府中刑務所関係各位の熱意と実践力に敬意を深くしている。本システムの構築により、離脱・更生に関して情報交換や連携が緊密になることと相まって、施設内で行われている離脱指導と施設外関係機関の支援活動が有機的に融合され暴力団更生への相乗的効果が期待できる実感を得た。大変心強い限りである。
 また、講義を通じて直に接した離脱希望受講者の真摯な姿勢から、一人一人の暴力団組織からの着実な離脱が暴力団を人的に切り崩し、ひいては暴力団根絶への足がかりとなっていく手応えを感じている。


5 おわりに

 
 暴力団員の離脱の過程を検証すると、組の壊滅・解散、組員自身の検挙・服役・結婚、家族・親族・子どもの成長などの影響が契機となった例が多い。われわれは、常に、暴力団員が更生を真剣に考える環境をつくり、その機を失しない助言・指導と必要な措置を施さなくてはならない。
 特に、矯正機関における受刑者の改善・更生指導は、社会とのつながりにおいて継続的に実践していくことであるから、まさに、前記4(4)で紹介した府中刑務所に見られるような施策は、関係機関・関係者が行う支援活動との有機的融合を図り、その相乗的な効果による着実な更生を遂げさせるシステムの構築として注目される。
 今後、暴力団の離脱・更生意欲の増進と円滑な社会復帰に向けた矯正の前進を図る中核的仕組となっていくことを望むものである。