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民暴弁護士論文

2009年7月 特別寄稿「全国センターだより51号」抜粋

みかじめ料等縁切り同盟への取組み

 高知弁護士会民事介入暴力対策委員会委員長
弁護士 田村 裕

 


 目下、高知県下で展開しております「みかじめ料縁切り同盟運動」(以下、「縁切り運動」という)の取組み状況について、まとめてみました。

1 縁切り運動の経緯と活動状況について

① 平成19年1月の民暴研究会(※)で、「縁切り運動」の立ち上げについて提案が行われ、同年9月弁護士会の了承を受け、「縁切り運動」を展開することについて暴追センター、県警察との間で正式に合意しました。併せて支援対象を個人経営にかかるスナック、居酒屋等とすること、運動地域を宿毛地区(宿毛市、大月町、三原村)から始めることに決定しました。

    • ※ 高知県においては、平成12年11月7日、(財)暴力追放高知県民センター、高知県警察と弁護士会との間で民事介入暴力対策三者協定が成立した。以後2ヶ月に1回のペースで三者が民暴研究会を開催し、情報の交換と共有、民暴個別事件への対応、暴排運動(平成16年の一斉購読拒否運動など)の実践活動の場として来たところである。

② 平成19年12月7日、宿毛市内において総決起大会を開催したところ、同日までに宿毛地区内約120店舗のうち89店舗(約74%)から弁護士宛の委任状を徴収することができましたので、同年12月20日付で地元の暴力団組長宛に、今後みかじめ料を支払わない旨の内容証明郵便を発送しました。
 その後、宿毛地区に引き続き中村地区(四万十市、黒潮町)でも運動を展開することに合意し、平成20年3月9日、四万十市内で総決起大会を開催しました。 同日までに中村地区内約212店舗のうち134店舗 (約63%)から弁護士宛の委任状を徴収することができましたので、同年3月24日付で地元の暴力団三団体の組長宛に同様にみかじめ料の支払いを拒否する旨を通知する内容証明郵便を発送しました。
③ 平成20年度には、地元暴力団の本拠地である高知市内(暴力団22団体約300名)を対象地域として運動を進め、884店舗のうち221店舗(約25%)から委任状を徴収することができました。そして平成20年10月15日には総決起大会を催し、11月1日、地元の暴力団四団体に対しみかじめ料の支払いを拒否する旨を通知する内容証明郵便を発送しました。
 高知市内は、宿毛地区、中村地区に比べ格段に飲食店数が多いため、重点的に中心区域を抽出して組織化を図りましたが加入率が目標の50%に至らず、地元警察署では二年目も期間を限定して加入促進を図るため、重点的に巡回ローラーを実施することにしています。
 
※みかじめ料等のアンケート調査の概要
● 調査の方法、対象等
  本アンケート調査の方法、対象等は次のとおり
  ① 調査方法 郵送による
  ② 調査対象業者 高知市内所在の飲食店、バー、キャバレー等の風俗営業者及び警備業者930業者
● 回収結果
  アンケート回答結果表の回収数は、129通であった。

円グラフ 「アンケート調査結果」
 
棒グラフ「不当要求の種類」
 
棒グラフ「要求の内容」
 
棒グラフ「業種別件数」
 
円グラフ「要求金額」
 
 

2 「縁切り運動」の狙いについて

① 高知県警で暴力団の取り締まりを担当してきた一線の刑事には、従前警察が行ってきた暴排ローラーは、そのとき限りの一時的対策で継続性が認められない。検挙一辺倒では、いつまでも暴力団を壊滅させられないとの反省がありました。民暴研究会でこうした一線刑事の考えが示唆され、こうした中から暴力団の最大にして安定的な収入源はみかじめ料であり、この収入源を遮断することによって暴力団を弱体化させ、壊滅へ追い込もうという狙いで、この運動を立ち上げる提案がなされたものです。
 他方協議のなかで、弁護士会としても暴力団の弱体化、壊滅には異論はないが、他の視点からこの運動の意味を考えました。すなわち暴力団がその威力を背景に、経済的基盤が脆弱で横の繋がりを持たない個々バラバラな、スナックや居酒屋からみかじめ料を取り立てる行為は、スナック経営者らに対する人権侵害であるとともに、まじめに働く一般市民のささやかな収入が恒常的に裏社会に流れることは看過できないというものであります。
 警察は社会秩序維持の視点から、スナックや居酒屋に止まらず、より多額のみかじめ料が動くパチンコ店や建設土建業者を同盟組織に加えることを提唱しました。他方、弁護士会としてもこれを否定する訳ではありませんが、弱者の人権を擁護するとの弁護士の視点から、特に一人ママのスナックや居酒屋を組織化して支援することから運動を立ち上げることを提唱しました。警察と弁護士会との複眼的思考の成果であるとともに、今回の縁切り運動を両組織の妥協点として個人経営のスナック、居酒屋に限定したものですが、今後この運動の成果如何によっては、支援対象を広げることも検討する必要があると思われました。
② なぜ縁切り運動を宿毛そして幡多地方から始めたかについてであります。
 宿毛地区はスナック等の店舗数が他の地域に比して少なく、また同地区には、暴力団組織が一組織しか存在しておりません。的を絞ることが可能でありました。宿毛地区は、かつて競売に附された暴力団組事務所用地を市民が募金を募って競落し、暴排の記念碑を建てるなどの運動が展開された土地であり、市民の暴排意識が強いという事情もありました。そして、最終目的である高知市内に縁切り運動を繋げるためにも、この地域でこの運動をまず成功させ、そして勝ち癖をつける必要があったからです。

3 縁切り運動の特色

 この運動には、次の四つの特色が認められます。
① 暴力団に違法収益が入らないように、収益を入り口でせき止める運動。
 暴力団対策にとって違法収益を有効に吐き出させるシステムを構築することは重要ですが、平成15年に発覚した五菱会事件に対する対応に見られるように、一旦暴力団の懐に入ってしまった違法収益を取り戻すには、法的にも経費的にも大きな困難が伴うものです。それ故に収益の入り口のバルブ(valve)を締めることによって暴力団への資金の流入をせき止めることが、暴力団対策には有効であります。
② みかじめ料を取られる市民側の自覚と自主性を背景にする運動。
 平成20年6月、今国会で成立した暴対法の改正の一つに、暴力団の威力を利用した資金獲得活動に伴い発生した生命、身体、財産の損害について組長責任を拡大する規定が置かれました。
 今般の改正は、資金獲得活動のための組織の維持を無意味とする制度(警察白書)として格別の進化を遂げたものと評価し得るものですが、こうした法律による規制に加えて、資金を巻き上げられる市民側の自覚と自主性に基づいた運動であるという意味で、暴力団の収入源を遮断することに対し更に有効な運動だといえます。
③ リアクションのターゲットを分散することによって、暴力団によるリアクションを有効に防ぐ運動。
 市民側が集団で対応する目的で同盟を結成し、警察、暴追センター、弁護士会などの支援組織が同盟の一員に加わることによって、暴力団もしくは暴力団員によるリアクションのターゲットを分散し、リアクションを有効に防ぐことに効果的な運動だといえます。
④ 継続性を保つことのできる運動。
 市民が同盟を組織し、暴追センターなどの支援組織が同盟に参画することによって、一回だけの打ち上げ花火で終わらせず、運動に継続性を持たせることが可能となります。このことも暴力団の収入源を長期に渡って遮断することに有効だといえます。

4 今後の展開

  平成21年3月の民暴研究会で県警察から「縁切り同盟加入促進業種として建設業等を加えたい。理由は事件捜査の過程で請負工事代金の5%程度の金が協力金目的等で暴力団に徴収されているケースがある」との提案が行われ、弁護士会の承認を受け、建設業界への説明に入ったところです。