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民暴弁護士論文

2005年7月 特別寄稿「全国センターだより 35号」抜粋

公共工事に関する暴力団排除施策「広島方式」について

 

 日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会副委員長
広島弁護士会民事介入暴力対策委員会副委員長
中井 克洋(弁護士)

 


 

1.広島方式の内容

 広島県におきましては、平成15年7月1日から、広島県発注の公共工事に関する暴力団排除施策が施行されました。 その内容は、
暴力団に限らず、公共工事に関して不当要求や工事妨害(この2つを併せて 「不当介入」 といいます)があった場合には

  1. 業者は県に報告するとともに、所轄警察署の刑事課長に対して届出をする。
  2. 県は業者とその対応につき共同で協議し、必要に応じて業者を指導する。県の担当者も現場に出向くなどしてトラブルに共同で対応する。
  3. 県警は県内全署に公共工事等不当介入排除専門官を設置し、排除専門官は届出を受け次第、業者からの事情聴取や調査を行い、要求してきた者に対しても警告を出し、捜査を進める。
  4. 不当介入か否かの判断は、直接的には業者が行うが、県も相談や指導を行うとともに、弁護士に相談できない業者は暴追県民会議から弁護士を紹介され、弁護士は即座に相談にのる。

というシステムです。 このシステムのことをマスコミや我々は「広島方式」と呼んでいます。 広島方式を施行するにあたって、県は、業者との工事請負契約における特約事項を変更し、A.の通報を契約上の義務としました。その結果、もしも業者が通報を怠れば、契約違反として、建設業者等指名除外要項により1ヶ月以上の指名除外となります。

2 広島県下における不当介入事件と施策後の効果

 広島県においては、平成13年11月ころより摘発された事件だけでも、広島県下に3つある全ての指定暴力団において、その傘下の組員による公共工事の不当要求事件が起きていました。
 しかも、その要求の仕方が 「建築は0.5%、土木は1%をお願いしている」 「工事金額の2%か3%の数字がだせんのか」 「3,000万円以上の公共工事は調整料として1%もらっている」というものであり、当然の権利のような要求の仕方からして、不当要求が恒常化し、業者たちもそれに応じてきたことを窺わせます。
 このような要求を受けた場合、業者の立場にたってみれば、 「利幅の少ない最近の工事において暴力団などにお金を払いたくないのはやまやまであるが、工期があるのでいつまでも放っておくわけにはいかない。工期については、被害届を警察が受け付けてくれれば、その受付証明を発注先の自治体に出すことにより、工期遅れを認めてくれることにはなっている。しかし、不当介入といっても内容が不当なだけで、態様まで刑事事件になるようなやり方で行われることは珍しく、警察も被害届を受け付けてくれるとは限らない。そうすると、工期遅れが気になるあまり、ついつい要求に応じてしまうということも十分にありうる」 というのが本音だったのではないでしょうか。
 他方、行政の立場にたった場合、 「行政といっても組織として不当介入に対応できるシステムになっておらず、個々の公務員が業者から相談を受けてもどのように対応してよいかわからないし、警察に相談にいっても、何かことが起こってからきてください、といわれることもある。だからついつい業者まかせにしてしまいがちになる」 というのが本音だったのではないでしょうか。
 また、警察の立場にたった場合、刑事事件でもないのに早期からの関与は問題なのではないかという危惧もあったかもしれません。しかし、国民の権利が侵害されるおそれがある場合に、その保護をするための行動をとることはむしろ警察の職務範囲であり、警察が不当介入事案に対し早期から対応することは問題ありませんし、そのことは日弁連民暴委員会の協議会でも確認されています。
 そこで、関係者が、人まかせにせずに、警察の早期の協力を得て、一緒に問題を解決しようというのが広島方式です。
 たまに、不当介入のあった場合に通報する義務が業者に課されたという点だけが強調されて、あたかも業者だけが不利益を押しつけられたシステムになったかのようにいう人もいますが、それは大きな誤解です。むしろ、それまで孤立しがちだった業者を行政と警察が早い時期からバックアップして、不当介入を排除するのがこの施策の目玉であり、むしろ業者保護のための制度なのです。現に業者からも、不当介入があっても県や警察が最初から一緒に対応してくれるので工期を気にすることも必要なくなり、また理由ができたため、不当介入を断りやすくなったという声が多く聞かれます。
 その結果ですが、平成15年7月1日の施行以後、公共工事等不当介入排除専門官が受理した相談案件がかなりあり、相談事案は早期に解決しているとのことです。
 このような制度が全国でもとりいれられることによって、不法勢力の大きな資金源を絶つことに役立つよう願っております。